「一本っっ!!!!」

とてつもなく広大な屋敷の一角…古びた稽古場に大きな声が響いた。

「うへー…相変わらず隼人は強ぇえな!」
「でもさ、その隼人と互角にやり合える律もすげぇべ!!」

と周りからわいわい声が飛び交う。


「くそっ…」


律は今回もまた負けた。
いつも剣術の稽古の最後には律と隼人一対一で勝負するのが習慣になっていたが、
あと一歩の所で一本取られてしまう。

「よし!今回もオレの勝ちだ〜律。明日も勝ちにいくよ…ほら」

誇らしげに喋りながら隼人は、床に座り込んでいる律に手を差し出した。

「…ふん、今のはお前が変なイカサマしたから負けたんだ!」

と律は隼人の手を払い、立ち上がった。
実際、隼人は強い。この中で敵う者はいない…律以外は。


あの日、綺麗な朱に染まっていた茜空の下…三十二人の子供達が真田家に買い集められた。
屋敷の最奥にある真っ白な砂が敷き詰められ、真っ白な壁に囲まれた広大な庭に
いかにも貧しい生活を送っていたと言わんばかりのみすぼらしい格好をしている子供達が無言のままぞろぞろと集められた。
これから何をしなければいけないのか全く理解出来ずにいる為か、誰も声を発しない。

そんな静まり返った中…奥の屋敷から現れた人物に全員が一斉に注目した。

病的な白い肌、紺色の美しい長髪を一つに結い、すらりと背の高い吸血鬼。
髪の結び目にはキラキラした簪が数本付けてある。これが…



日本国の闇夜とも言える全ての吸血鬼を統括する真田家の当主――真田 柾之(さなだ まさゆき)。
こんな細見で弱々しい外見からは、慈悲も情けもなくターゲットを抹殺する吸血鬼とは誰も思えない。
しかしよく見てみると凛と整った顔の左側には大きな傷があり、肌が見える首や手などにも無数の傷痕が刻まれていた。
これが日本国の闇を支配する者の姿。

皆その恐れ多き人物が何を話し出すのか、静かに見守っていた。

「いいか…今この瞬間からお主達は我が真田家の養子だ。ただ、何の為の養子かというと後継ぎを探しておる」

少し自分達の置かれてる状況を理解してきたのか、ざわざわし始めた。
皆知っているのだ…真田家の存在の大きさと後継ぎがどういう役目を負わなくてはいけないのか。
闇夜に生きる者達にとって有名な話だ。

「お主達には後継ぎに相応しい能力を身につけてもらわねばならない。だからこの屋敷で生活しながら稽古に励め」
「そして…この中から最強の者を後継ぎとして選ぶ事とする」
「この真田家を継ぐという事はどういう事か分かっておるだろう?この家の莫大な財産を継げるのだ。」
「もう、今までのような貧しく辛い生活をせずに済む。もちろん町にいる家族に裕福な生活を送らせてやる事だってできる。…強くなって己の倖を掴むのだ!」

長い話はだんだん声も大きくなっていた。

ここに集められた子供は皆貧しく、ハングリー精神の塊だった。
そんな子供達は、真田家からすれば好都合の後継ぎ候補だったに違いない。
もちろん律も貧しかった。
父は冴えない浪人で様々な賭博に手を出し…最期は仲間の浪人同士の喧嘩に加わりあっさりと斬り殺された。
母は病気がちで、姉が生計を立てている状態。

律は―― 強くなって、武士になりたかった。
浪人同士の斬り合いでただ犬死していった父とは異なる…真に強い武士になりたかった。
しかし、稽古すら通えるはずもなく、死んだ父の血で錆び付いた刀で一人稽古するしかなかった。
だから律は真田家に来れた事を感謝した…はじめの頃は。

望み通り強くなって真田家を継ぐ存在となる。
律が真田家に買われたお陰で母や姉に大金が入って楽な生活を送れるようになっただろうし、
後を継げばより豊かな暮らしができるはず。

そんな野望の想いを抱いている律の隣にいた少年…それは――



<<<backnext>>>




朱の絆−弌−