真田家に住み込みで稽古する日々が一週間が過ぎた頃、周りの子供達はわいわい楽しそうに稽古している。
そんな中、律は強くなる為だけに専念していたからか周りには誰もいない。
別に律自身はそれで構わなかった。トモダチだのなんだの鬱陶しいだけだ。

が…
そんな律に話しかけてきた少年が一人。


「キミ、強そうだね」


そう言って微笑む少年。
    
たかすぎはやと
「オレ、高杉 隼人っていうんだ。多分…キミと歳一緒」

律よりも少し背が高く美しい紅柄色の髪を一つに結い、馴れ馴れしい喋り方が癪に障る。
しかし、見た目からは貧しいようにも見えない。何故、ここに…?

「…お前、武家か?」

律は、不思議に思った事を率直に聞いてみた。

「え?あぁ…オレの家は旗本…だったよ。お偉いさんの濡れ衣着せられて、お陰で堕ちた旗本さ」

淡々と過去を話す変わった奴。
今の時代…こういう家の者が多いのは事実。そんな家柄の子供はここにも結構いるのだ。

「お前、旗本の子だったらそれなりに強いんだろ?俺の相手しろ」

律は足元にあった木刀を目の前に立つ少年に渡した。
独学で稽古してきた律だが、こいつはきちんとした稽古をしてきたはず。
強くなる為には、強き者と戦って様々なものを吸収しなくてはならないと律は考えていた。

「別にいいけど。後から後悔しても遅いよ、 律」

不敵に微笑む隼人に律は苛立ちを覚えながら…お互い木刀を構え、間合いを取った。

周りで騒いでいた子供達も、何が始まるんだとばかり静まりだした。
そんな事は気にせず律はじりじりと間合いを詰め一息短く吐いた。それと同時に床を蹴り、一瞬で隼人の懐に入り込み一太刀浴びせた。


完全に捉えた!


と思った瞬間…隼人は素早く避けて瞬時に律の太刀を弾き返した。なんて力だ。
その反動で律はバランスを崩したが、すぐに立て直しもう一度一太刀浴びせようと振りかぶった時…には隼人の姿はなく、


「遅い」


真横からそう笑う声と気配がして、隼人の姿を探している間に

「っ!!?」

手加減なしに木刀が律の脇腹にめり込んだ。
内蔵のきしむ音が聞こえた様な気がして…膝に力が入らず、律は床に倒れこんだ。
ズキズキと脇腹に響く痛み――それよりも、律は自分の力がこれっぽっちも通用しないことに愕然とした。

悔しい…
悔しい…強くなりたい…
もっともっと…誰よりも強く…

そんな想いがどんどん溢れ、律は悔しさのあまり床に突っ伏したまま拳をふるふると震わせながら握りしめる。
律は、決心した。自分よりはるかに強い隼人にこれから稽古を頼もうと。恥とか言ってる場合ではない。強く…強くなりたいのだ。
そんな決意を伝えようと律は傍に立っている隼人を見上げた。

が、それと同時に頭上から声が降ってきた。




「うん、太刀筋も悪くないし瞬発力も高いしなぁ〜基礎を身に付けたら強くなれると思うよ」

と律の腕を引っ張り立たせて、隼人は事細かに解説を始めた。そして

「よっし!オレが一から稽古付き合ってやる。強くなりたいんだろ??」

律は驚いた。自分の言いたかった事を言われてしまったからだ。
この目の前で微笑む隼人という少年…何を考えているのかさっぱり分からない。掴みきれない存在というべきか。

「…なんでそんな事をしてくれる。弱い奴を自分が育てて優越感にでも浸りたいのか!?」

律は皮肉をこめて毒付いた。
普通なら自分の脅威をなる存在ならさっさと排除するのが当たり前だろう。

「まぁ…そんなもんかな。でもさ、ライバルがいる方が向上心を刺激するってもんだろー?」

一体こいつはなんなんだ。
しかし、律は強くなる為だったらなんでも構わなかった。
早く強くなってこのムカつく隼人をぎゃふんと言わせてやる…そう、律には新たな目標が出来たのだ。


それからというもの、飯を食べる時と寝る時以外は常に隼人と律は稽古をした。
隼人は自分の持っている知識と技術をすべて叩き込んだ。律も強くなる為に、隼人の教える一言一言を聞き洩らさぬよう必死に身に付けた。

お互い稽古の時は手加減なし。本気で敵と思い勝負した。

お陰で毎日体中痣だらけ…お互いの傷を見て笑い合う、いつしかかけがえのないトモダチと言える存在になっていた。
律は人付き合いが苦手だが、隼人には何故か気を許せる。
朝から晩まで毎日一緒にいるから鬱陶しくて喧嘩する時もあるが、それでも本音でぶつかり合える律の初めての親友であった。

そして…

真田家へ来て稽古し始めて、幾年という時が過ぎ去っただろうか。
この家に買い集められた三十二人全員が同じ時間を過ごし、辛く厳しい稽古に耐え、寝床を共にし苦楽を分かち合った仲間であった。
初めはぎこちなかったが、今は三十二人皆大切な存在だ。

律も隼人も背が伸びて、お互い身長の差はほとんどなくなった。
今まで毎日欠かさずやってきた稽古後、隼人と律の一対一での勝負も昔は隼人に敵わなかった律も、
現在は互角に戦えて勝負がつかず毎回引き分けに終わるほどになっていた。
隼人に教わった基礎を土台に、律は毎日手のひらから血が滴りながらも木刀を握り応用の利く剣術を猛特訓した。

律は…何故か焦っていた。
早く、早く強くならねばと。その意味が後で明らかになるとは全く予想していなかった。





<<<back | next>>>





朱の絆−参−